思い出の一本 (   )y−o O O



182 :ユウイチ :03/03/16 08:29
定期検診のレントゲンで、肺にあやしい影が見つかったらしい。
1日20本程度の平均的なスモーカーだった親父だが、たまに変な咳をする事があった。
食事の時、笑顔で「これがお前達との最後の晩餐になるかも知れんぞ」
などと冗談を言い合ったが、みんな嫌な予感はあったと思う。
嫌な予感は的中した。進行した肺ガンだった。すでに手遅れだった。
病状を聞いた親父は、無駄な治療を一切拒否した。
タバコもやめる事はしなかった。
学校帰りに病院に見舞いに行く事が日課になった。
その日はたまたま、母親も姉も何かの用事で病院に来ていなかった。
病院の屋上で、夕暮れの空を2人で眺めた。
ユウイチ、おまえタバコ吸ってるだろ?」、親父が言った。
当時高1だった俺だが、タバコは中3から吸い始めていた。
「吸っている。バレてたんだ。」、死にゆく人に嘘はつけなかった。
「母さんから聞いたんだ。ベットの下に隠してるだろ。もっといい隠し場所にしろよな。」
親父は笑い、俺も笑った。



183 :ユウイチ :03/03/16 08:29
それから親父は持っていたタバコを差し出して、「一緒に吸うか?」と、タバコを勧めてきた。
俺はタバコを貰い、親父はそのタバコに火を点けてくれた。
俺は大きく煙を吸い込むと、夕焼けの空に向って吐いた。
そして親父は言った。
ユウイチ、俺の人生の最後のお願いを聞いてくれないか?」
俺はゆっくりうなづいた。
「タバコから得られるものなど何もないんだ。ただ奪っていくだけなんだよ。
その1本をおまえの人生の最後の1本にしてくれないか?」
「わかった。約束する。」
正直、そろそろやめてもいいかな?と思っていた頃だった。
それからしばらくして親父は死んだ。
あれから13年、俺は約束を守り続けている。
もちろんこれからも守り続けるつもりだ。